年齢とともに気になる胃腸の弱り。漢方で読み解く体の声
年齢とともに気になる胃腸の不調
年齢を重ねるにつれて、「食事の量が減った」「胃がもたれやすい」「食欲があまりわかない」「便秘がちになった」など、胃腸の不調を感じることが増えてくるかもしれません。これらの変化は、特別な病気ではないとしても、日々の生活の質に影響を与えることがあります。
西洋医学では、胃腸の機能低下や特定の疾患として捉えられることが多いこれらの不調ですが、漢方ではまた違った視点から、その原因と体の状態を読み解いていきます。
漢方で考える胃腸の働きと体のバランス
漢方では、私たちの体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランスを取りながら巡ることで健康が保たれていると考えます。そして、胃腸の働きは特に「脾(ひ)」という概念が深く関わっています。
「脾」は、飲食物を消化・吸収し、全身に栄養を行き渡らせる役割を担っています。いわば、エネルギーを作り出す工場のようなものです。この「脾」の働きが年齢とともに弱まってくると、消化吸収能力が落ちたり、水分代謝が悪くなったりすることで、様々な胃腸の不調が現れやすくなります。
- 気が不足すると… 「気」は生命活動のエネルギーであり、「脾」が飲食物から「気」を作り出します。しかし、「脾」の働きが弱まると、「気」を十分に作り出せなくなります。すると、体を動かすエネルギーが不足してだるさを感じたり、胃腸を動かす力も弱まって食欲不振や胃もたれにつながることがあります。
- 血の巡りが滞ると… 「血」は全身に栄養を運びます。「脾」は「血」を作り出し、その巡りを助ける働きもあります。「血」の巡りが滞ると、胃腸の組織に必要な栄養が届きにくくなり、痛みを伴うこともあります。
- 水のバランスが崩れると… 「水」は体内の水分全般を指し、「脾」はその代謝を調整します。「脾」の働きが弱まると、余分な「水」が体に溜まりやすくなります。これが胃に溜まると胃もたれや膨満感、腸に溜まると下痢やむくみ、さらに体の冷えにつながることもあります。「湿(しつ)」として表現されることもあります。
胃腸の不調と漢方的な見方
同じ「胃もたれ」や「食欲不振」といった症状でも、漢方ではその原因となる体のバランスの崩れ方(これを「証(しょう)」と呼びます)が人それぞれ異なると考えます。
例えば、
- 「気が不足して、食欲がなく、疲れやすい」という方には、「脾」の働きを補い、「気」を増やすような考え方の漢方が検討されることがあります。
- 「余分な水(湿)が溜まって、胃がもたれやすく、体が重だるい」という方には、「水」の代謝を助け、「湿」を取り除くような考え方の漢方が検討されることがあります。
- 「気の巡りが悪く、お腹が張って苦しい、げっぷが多い」という方には、「気」の巡りを良くするような考え方の漢方が検討されることがあります。
このように、表面的な症状だけでなく、その方の体質や他の不調も総合的に見て、今ある体の状態(証)に合わせたアプローチを考えるのが漢方です。
自分に合った漢方を見つけるために
胃腸の不調に漢方を取り入れてみたいと思われたら、まずは専門家にご相談されることをお勧めします。
医師、薬剤師、登録販売者といった専門家は、あなたの具体的な症状だけでなく、体質、体力、その他の体の状態、生活習慣などを詳しく伺い、「証」を見極めます。そして、その「証」に合った漢方薬を選んでくれます。自己判断で市販薬を選ぶよりも、より効果的で、安心して使うための一歩となるでしょう。
また、胃腸の不調の背景に、別の病気が隠れている可能性もゼロではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けることが大切です。その上で、漢方薬を治療の選択肢の一つとして検討されても良いでしょう。
薬だけに頼らない漢方的なケア
漢方では、薬による治療だけでなく、日々の養生も非常に重要視します。胃腸のケアにおいても、食生活や生活習慣を見直すことが大切です。
- 食事: 冷たいものや脂っこいものは控えめにし、消化の良い温かいものをゆっくりと摂るように心がけましょう。
- 生活: ストレスは胃腸の働きに影響を与えますので、リラックスできる時間を持つことも大切です。お腹周りを冷やさないように腹巻きを使うのも良いでしょう。
これらの日々の工夫も、漢方薬と併せて行うことで、体の内側からの調和をサポートすることにつながります。
まとめ
年齢とともに感じる胃腸の不調は、体のバランスが崩れているサインかもしれません。漢方では、「脾」を中心とした「気・血・水」のバランスという視点から、不調の原因を読み解き、対処法を考えます。
ご自身の胃腸の不調について、漢方の考え方を取り入れてみたいと思われたら、まずは専門家に相談してみてください。あなたの「証」に合った漢方薬や、日々の養生について、きっと良いアドバイスが得られるでしょう。焦らず、ご自身の体の声に耳を傾けながら、ゆっくりと体調を整えていくことを目指しましょう。