年とともに増える体の不調、漢方ではどう考える?
加齢とともに感じる体の変化と不調
年を重ねるにつれて、「以前より疲れやすくなった」「なかなか疲れが取れない」「体のあちこちが痛む」「夜中に何度も目が覚める」など、さまざまな体の不調を感じることが増えてきた、ということはございませんか。
これらは、多くの方が経験される自然な体の変化と言えます。しかし、これらの不調によって日々の生活が不自由になったり、気分が落ち込んだりすることもあるかもしれません。
なぜ、年を重ねると体にはこのような変化や不調が起こりやすくなるのでしょうか。漢方では、この加齢による体の変化をどのように捉え、それに対してどのようにアプローチしていくのでしょうか。ここでは、漢方の視点から、年とともに増える体の不調について考えてみます。
漢方から見た「加齢」とは?
漢方では、私たちの体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランス良く巡ることで健康が保たれていると考えます。気は生命活動のエネルギー、血は体に栄養を運ぶもの、水は体内の水分全般を指します。これらに加えて、「五臓(ごぞう)」(肝・心・脾・肺・腎)の働きも重要視します。五臓は、西洋医学の臓器そのものとは異なり、それぞれが体のさまざまな機能や精神活動を司るネットワークのようなものと考えられています。
漢方において、加齢や老化と特に関わりが深いと考えられているのが、この五臓の中の「腎(じん)」です。
「腎」の衰えが加齢による不調につながる?
漢方でいう「腎」は、生命活動の根源的なエネルギー(精(せい))を貯蔵し、成長、発育、生殖、老化といったライフサイクル全般を司ると考えられています。また、水分代謝の一部や、骨・歯・耳・髪とも関連が深いとされています。
年を重ねるにつれて、この「腎」の働きが次第に衰えていくと考えられています。これを「腎虚(じんきょ)」と呼びます。腎の機能が低下すると、貯蔵されている生命エネルギーが不足しやすくなり、これが加齢に伴うさまざまな不調として現れやすいと考えられているのです。
例えば、以下のような不調は、漢方では腎虚と関連があるケースが多いとされます。
- 腰や膝の痛み・だるさ:腎は骨や関節、腰や膝の健康と関連が深いため
- 頻尿や尿漏れ:水分代謝や排尿機能の調整に関わるため
- 耳鳴りや難聴:腎は耳と関連があるため
- 物忘れや気力の低下:生命エネルギーの不足が脳の機能にも影響すると考えられるため
- 白髪や脱毛:髪や体毛も腎の精と関連があるため
- 骨がもろくなる(骨粗しょう症):骨の健康と関連があるため
- 生殖機能の衰え:生殖能力も腎の精が司るため
もちろん、これらの症状が全て腎虚によるものというわけではありませんが、加齢による体の変化と捉える際に、漢方では「腎」の状態を非常に重視するのです。
「気・血・水」の滞りも加齢による不調の原因に
加齢に伴う体の変化は、腎の衰えだけではありません。生命エネルギーである「気」の生成や巡りが滞りやすくなったり、体に栄養を運ぶ「血」が不足したり滞ったり(瘀血(おけつ))、体内の「水」の代謝が悪くなり余分な水分が溜まったり(水滞(すいたい))、といった状態も起こりやすくなります。
- 気の不足(気虚):疲れやすい、だるい、気力が出ない、風邪を引きやすい、など
- 血の不足(血虚):顔色が悪い、めまい、立ちくらみ、ドライアイ、肌や髪の乾燥、など
- 血の滞り(瘀血):体のあちこちが痛む、しびれ、あざができやすい、など
- 水の滞り(水滞):むくみ、めまい、頭重感、関節の痛み、胃腸の不調、など
これらの「気」「血」「水」のバランスの乱れや滞りも、加齢とともに増えるさまざまな不調の原因となることがあります。例えば、膝や腰の痛みも、単なる「腎虚」だけでなく、「瘀血」による血行不良が関わっていたり、関節に水が溜まる「水滞」が原因であったりと、人によって状態は異なります。
漢方的なケアの考え方
このように、漢方では加齢に伴う不調を、単なる老化現象として片付けるのではなく、「腎」をはじめとする五臓の働きの衰えや、「気・血・水」のバランスの乱れとして捉えます。そして、その人それぞれの体の状態(「証(しょう)」)を見極め、不足しているものを「補ったり」、滞っているものを「巡らせたり」することで、体全体のバランスを整え、本来持っている回復力を高めることを目指します。
例えば、腎の衰えが顕著な方には、「腎」の働きを助ける生薬を含む漢方薬が検討されることがあります。よく知られているものに、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などがあります。これらの漢方薬は、腰痛、頻尿、むくみ、しびれなど、腎虚に関連するさまざまな症状に用いられることがあります。ただし、同じ症状でも原因や体質によって選ぶべき漢方薬は異なります。
自分に合った漢方を見つけるには
漢方薬は、体質や症状、病気の原因など、その人全体の情報を基に選ばれます。「証」を見極めることは専門的な知識が必要です。
加齢による体の不調に対して漢方薬を試してみたいと思われたら、ぜひ専門家にご相談ください。医師、薬剤師、または登録販売者は、あなたの今の体の状態や、どのような不調に悩んでいるのかを詳しく伺い、数ある漢方薬の中からあなたの「証」に合ったものを提案してくれます。
漢方薬の中には健康保険が適用されるものも多くありますので、「高価そう」といった心配ばかりせずに、まずは気軽に相談してみるのが良いでしょう。
まとめ
年を重ねることは、漢方では「腎」の働きが穏やかになっていくプロセスと捉えられます。それに伴い、「気」「血」「水」のバランスも変化しやすくなり、さまざまな不調が現れることがあります。
これらの体の変化を漢方の視点から理解することは、ご自身の体の声に耳を傾け、適切なケアを見つけるための一歩となるでしょう。加齢による不調は避けられないものと思われがちですが、漢方的なアプローチによって、それらを和らげ、より健やかな毎日を送るためのヒントが得られるかもしれません。
ご自身の体の状態に合わせたケアを見つけるために、ぜひ専門家にご相談ください。