年齢とともに気になる耳鳴り・めまい、漢方で考える原因とケア
加齢とともに増える耳鳴りやめまいの悩み
年齢を重ねるにつれて、これまで感じなかった体の変化に気づくことが増えてまいります。中でも、耳鳴りが続いたり、ふわふわとしためまいを感じたりすることは、多くの方が経験される不調の一つです。病院で検査を受けても、「特に異常はない」「老化によるもの」と言われることも少なくありません。
これらの不調は、日常生活に大きな影響を与えることもあります。「もう治らないのだろうか」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
漢方では、このような加齢に伴う耳鳴りやめまいを、西洋医学とは異なる視点から捉え、体全体のバランスを整えることでアプローチしていくことがあります。
漢方における耳鳴り・めまいの考え方
漢方では、病気として診断名をつける前に、その人の「証(しょう)」、つまり体質や体の状態を細かく観察することを重視します。耳鳴りやめまいといった症状も、単なる耳や脳の問題としてだけでなく、体全体のつながりの中で原因を探っていきます。
特に、加齢に伴う不調として耳鳴りやめまいが現れる場合、漢方では「腎(じん)」の機能の衰えや、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」といった体の中を巡る要素の乱れが関係していると考えます。
- 腎(じん)とは: 漢方でいう「腎」は、生命エネルギーの源であり、成長、生殖、そして「耳」や「骨」などの働きと深く関連しています。加齢とともに「腎」の機能が衰えることを「腎虚(じんきょ)」といい、これが耳鳴りやめまいの一因と考えられています。
- 気・血・水とは:
- 気: 体を動かすエネルギーのようなものです。気が不足したり滞ったりすると、めまいや立ちくらみが起こりやすくなります。
- 血: 全身に栄養を運ぶ血液とその働きを指します。血が不足すると、めまいやふらつき、顔色の悪さなどが現れることがあります。血の流れが悪くなる「瘀血(おけつ)」も不調の原因となります。
- 水: 体内の水分すべてを指します。水の巡りが滞ると、むくみやめまい、頭重感などが生じることがあります。「湿(しつ)」や「痰(たん)」とも呼ばれます。
これらの「腎虚」や「気・血・水」の乱れが複合的に影響し合い、耳鳴りやめまいといった症状として現れると考えるのが、漢方の基本的な見方です。
漢方で考える耳鳴り・めまいのタイプとケアの方向性
耳鳴りやめまいの感じ方は人それぞれです。「キーン」という高い音の耳鳴り、低い「ゴー」という音、ぐるぐる回るようなめまい、ふわふわするめまいなど様々です。漢方では、これらの症状の現れ方や、同時に現れる他の症状(冷え、のぼせ、胃腸の不調、イライラなど)から、その方の「証」を見極め、アプローチを考えます。
いくつかの代表的な考え方をご紹介します。
- 腎虚タイプ: 加齢による「腎」の衰えが主な原因と考えられます。耳鳴りは低い音や蝉の鳴き声のような音、めまいはふわふわとした浮動感があることが多いようです。足腰のだるさや冷え、頻尿などを伴うこともあります。このタイプには、「腎」の働きを補うような漢方が検討されることがあります。
- 気血不足タイプ: エネルギーや栄養が不足している状態です。立ち上がるときにクラッとするめまいや、だるさを伴うことが多いようです。耳鳴りはあまりはっきりしないこともあります。気を補ったり、血を養ったりする漢方が考えられます。
- 痰湿タイプ: 体内の余分な水分が滞っている状態です。頭が重い、体がだるい、吐き気や胃腸の不調を伴うめまいが特徴的です。このタイプには、余分な水分を取り除く漢方が検討されることがあります。
- 瘀血タイプ: 血の巡りが滞っている状態です。耳鳴りは「ゴー」という拍動性の音で、頭痛や肩こりを伴うこともあります。血の巡りを良くする漢方が考えられます。
これらはあくまで一例であり、実際にはこれらのタイプが複合していたり、他の原因(ストレスによる気の滞りなど)が関わっていたりすることも少なくありません。
日常生活でできる養生
漢方の考え方では、薬に頼るだけでなく、毎日の生活の中で体を整える「養生(ようじょう)」も非常に大切にしています。
- 十分な休養と睡眠: 体を休ませることは、「気」や「血」を養い、「腎」を労わることにつながります。
- バランスの取れた食事: 栄養をしっかり摂ることで、体の基本的な機能を支えます。「腎」を助けると言われる黒い食べ物(黒豆、黒ゴマなど)を取り入れることも良いでしょう。
- 体を冷やさない: 特に足腰を温めることで、「腎」の働きを助け、血の巡りを良くすることにつながります。
- 軽い運動: 適度な運動は「気血水」の巡りを良くし、ストレス解消にも役立ちます。ただし、無理は禁物です。
これらの養生は、漢方薬の効果を高めるだけでなく、日々の体調管理にも役立つことでしょう。
漢方薬選びと専門家への相談
「自分の耳鳴りやめまいはどのタイプだろう?」「どの漢方を選べば良いのだろう?」と思われるかもしれません。しかし、先述の通り、漢方では一人ひとりの「証」を見極めることが重要です。ご自身の判断だけで漢方薬を選ぶのは難しい場合が多く、期待する効果が得られなかったり、体質に合わなかったりすることもあります。
自分に合った漢方を見つけるためには、医師、薬剤師、または登録販売者といった漢方の専門知識を持った方に相談されることを強くお勧めいたします。現在の症状だけでなく、体質、既往歴、普段の生活習慣など、様々な情報から総合的に判断し、最適な漢方を選んでくれます。
漢方薬の中には、保険が適用されるものも多くございます。「高価なのでは」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、専門家に相談される際に、費用についても確認してみると良いでしょう。
まとめ
加齢とともに気になる耳鳴りやめまいは、体からの大切なサインかもしれません。漢方では、これらの症状を体全体のバランスの乱れとして捉え、「腎」の衰えや「気・血・水」の巡りの問題など、様々な角度から原因を探ります。
自分に合った漢方や養生法を見つけるためには、自己判断せず、必ず専門家にご相談ください。漢方は、年齢とともに変化するご自身の体と向き合い、穏やかに不調をケアするための一つの選択肢となり得ます。焦らず、ご自身のペースで漢方を取り入れていくことを検討されてみてはいかがでしょうか。